
2025.09.11
住宅断熱リフォームが守る子供から高齢者の健康 第 1 回:住宅と健康に関する国内外の動き
近年、注目されているのが、住宅性能が人々の健康に与える影響です。日本の住宅のほとんどは断熱が十分 ではないという現状があり、そのような家で暮らし続けると、結果として病気になりやすいことがさまざま な研究によって明らかにされてきました。
日本人の健康をつくる住宅断熱リフォーム推進協議会では、2025 年 5 月 27 日(火)に福井市トレスタグリーンホールにて「建築と医学の視点から学ぶ健康住宅シンポジウム in 福井」 を開催。建築と医学の両視点か ら住宅環境を研究されている慶應義塾大学名誉教授の伊香v賀俊治先生をお招きし、「住まいの断熱性能と健康 の関係性」について解説いただきました。今回の講演内容を 5 回に分けて、お届けいたします。
「冬季室温 18 度」の WHO 勧告が健康住宅推進の追い風に
2018 年、世界保健機関(WHO)が発表した「住宅と健康に関するガイドライン」は、世界の住宅政策に大 きな転換点をもたらしました。このガイドラインで最も注目すべきは、住宅の冬季室温を最低でも 18 度以上 に保つことを強く勧告した点です。さらに、小児や高齢者については、より温かい環境が必要であるとしています。
この 18 度という基準は、単なる快適性の指標ではありません。「病気にならないための最低室温」として位置づけられており、医学的根拠に基づいた健康維持の必要条件なのです。また、冬季だけでなく、夏季の熱中症対策の重要性も示されています。
そのためこのガイドラインでは、住宅の新築時や改修時には断熱工事を実施することを世界規模で呼びかけ ており、これは住宅政策における画期的な変化といえるでしょう。
日本でも SDGs 実現への取り組みが進む
WHO のガイドラインの発表から 7 年が経過した現在、日本の政策はどのように対応してきたのでしょう か。SDGs(持続可能な開発目標)の目標 11「住み続けられるまちづくりを」の実現を担う国土交通省は、 2021 年に住生活基本計画を改定し、健康という視点を大きくクローズアップしました。 特に重要な変化が、2025 年 4 月からの新たな法的義務化です。全ての新築住宅において、断熱等級 4 「相当」の省エネ基準を満たさない住宅の建築が禁止されました。これは、健康維持に最低限必要な住宅性能を 法的に担保する画期的な措置といえるでしょう。
一方、SDGs の目標 「すべての人に健康と福祉を」を担当する厚生労働省も、2023 年の健康政策に住宅・ 住環境の改善を初めて盛り込みました。これまで健康政策において住宅の視点は入っていなかったのです が、国土交通省との連携の重要性が明確に示されたのです。
厚生労働省の取り組みと医療ガイドラインへの反映
2024 年 1 月からは、厚生労働省のウェブサイト「健康づくりサポートネット(旧:e-健康づくりネット)」に 住宅のページが新設され、WHO ガイドラインの解説と、室温と高血圧、睡眠の関係について紹介されてい ます。
このページ上で提供されている「室温の」チェックリストには、自宅の各場所やシーン別の室温を記入する 欄を設置しています。さらに、室温と健康の関係についても具体的な数値が示されており、「室温が何度下がると血圧が何 mmHg 上昇するか」「睡眠の質がどの程度悪化するか」といった医学的知見を一般の方にも分 かりやすく掲載。冬を快適に過ごすためのヒントなども記載されています。
2024 年 3 月に改定された循環器診療ガイドラインにも、ようやく住宅環境とのかかわりが明記されました。 ガイドラインの中では、住宅の断熱性などの住居の特性が循環器疾患と関連があることが指摘されています。
メディアでも住まいの寒さ問題が取り上げられるように
この 2 年間で、テレビメディアも「寒すぎる住宅」の問題を積極的に取り上げるようになりました。現在で は、NHK をはじめとする公共放送や民間放送で、住宅と健康の関係について詳細な番組が制作・放送されています。しかし現代社会においては、テレビ視聴習慣の変化によりテレビを見ない方も増加。こうした重要な情報が 十分に広まっていないという現状は、今後の課題となるでしょう。
健康住宅の推進が健康を向上させる 2018 年の WHO ガイドライン発表から 7 年が経過し、日本の住宅と健康に関する政策は大きく前進しまし た。国土交通省による断熱基準の法的義務化、厚生労働省による健康政策への住環境改善の盛り込みなど、 省庁を超えた包括的な取り組みが実現しています。 特に厚生労働省が室温と健康の関係を数値化して示したことで、「寒い家は体に悪い」という認識を科学的根拠に基づいた明確な指標に変えました。また、医療ガイドラインへの住宅環境の明記や、メディアによる積極的な報道も社会全体の意識向上に寄与しているといえるでしょう。
第 2 回となる次回の記事では、「データから読み解く福井県の住環境リスク」をご紹介します。
執筆・引用:一般社団法人 日本人の健康をつくる住宅断熱リフォーム推進協議会