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家づくりコラム

2025.09.11

住宅断熱リフォームが守る子供から高齢者の健康 第 2 回:データから読み解く福井県の住環境リスク

第 2 回の今回は、「データから読み解く福井県の住環境リスク」について詳しくご紹介いたします。

 

温暖な地域のほうが冬季死亡者増加率が高い

 日本全国 47 都道府県の冬季死亡者増加率を分析した結果、驚くべき事実が明らかになりました。 最も気温が低い北海道では、冬季の死亡者増加率はわずか 10%にとどまっています。しかし、北海道よりも 温暖とされる関東の栃木県では 25%もの増加率を記録し、北海道の 2.5 倍という深刻な状況にあるのです。 福井県の状況も深刻で、冬季死亡者増加率は 20%に達しています。
 これは北海道の 2 倍という数値であるた め、福井県にも課題が多くあると考えてよいでしょう。 この現象の背景にあるのが、断熱住宅の普及率の格差です。北海道では 8 割以上の住宅が一定水準以上の断 熱性能を有している一方、福井県を含む本州の多くの地域では断熱住宅の普及が遅れています。

 

 

福井県でも断熱住宅の普及が課題に 

 2023 年現在の最新データによると、日本全国で複層ガラス(ペアガラス)が一部の窓にでも設置されている 住宅の割合は約 3 割です。福井県はこの点では全国平均を上回り、4 割を超える普及率となっています。 しかし、健康維持に必要とされている「全ての窓への複層ガラス設置」となると、福井県でも 2 割程度の普及率しかありません。これは、県内の住宅の 8 割が依然として健康リスクを抱えた状態にあることを意味し ているのです。
また、県内の市町村別に見ると、断熱住宅の普及には地域格差が存在しています。今後の政策展開において は、この地域格差の解消が重要な課題となっていくでしょう。

 

交通事故死を上回る家庭内事故死 

 現代の日本において、交通事故死は確実に減少傾向にあります。一方で深刻化しているのが、家庭内事故死 です。 最も深刻なのが入浴事故死で、1995 年には年間約 3,000 人だった死亡者数が、現在では約 6,300 人まで増加 しています。この数字は交通事故死の 2 倍に相当し、「自宅の浴室」が「交通事故現場」よりも危険な場所に なっているという衝撃的な現実を示しているのです。
 また、転倒・転落による死亡者数も深刻な問題です。現在年間約 2,700 人が住宅内での転倒・転落により命 を落としており、このうち 7 割は同一フロア内の段差が原因となっています。玄関の段差や和室と廊下のわ ずかな段差など、普段はあまり意識しない住宅構造が、生命に関わる重大なリスクとなっているのです。

 

 

高断熱住宅の普及で熱中症を減らせる可能性も

 2024 年夏は気象観測史上最も暑い夏となり、全国で約 97,000 人が熱中症により救急搬送されました。このうち 38%が住宅内で熱中症になった事例です。福井県では、住宅内での熱中症の割合が 40%と全国平均を上回っている現状があります。
福井市の話ではありますが、過去 50 年間で猛暑日は 3 日から 18 日へと 6 倍に増加し、熱帯夜は 3 日から 29 日へと 10 倍近い増加を示しています。 この急激な気候変化に対し、住宅の断熱・遮熱性能が追いついていないため、熱中症が深刻化していると考 えられるでしょう。

 

 東日本大震災以降、地震や津波、それに伴う火災などによる直接死に対し、その後の家や避難所生活におけ る災害関連死の割合が 4 割に達することが明らかになっています。能登半島地震では、直接死 228 名に対し 災害関連死 356 名と、約 1.6 倍もの人々が避難生活の過酷さにより命を落としていたという状況です。 災害関連死の主な要因は、寒すぎる避難所や介護施設や自宅での生活の継続にあります。
こうした寒さ対策 が十分でない環境下での長期滞在により、循環器系疾患や呼吸器系疾患が悪化し、死に至るケースが多発し ているのです。 災害関連死の死因を分析すると、循環器系疾患が 3 割、呼吸器系疾患が 3 割を占め、心臓と脳と肺の疾患で 全体の 6 割に達しています。これらの疾患は、適切な室温管理により予防・軽減が可能であり、普段から高断熱を意識した住宅にしておくことが災害時の生命保護にも直結することを示しています。

 

データが示す福井県の住環境課題

 全国データと福井県の比較分析から、深刻な住環境課題が浮き彫りになりました。 北海道の冬季死亡者増加率が 10%であるのに対し、福井県は 20%と 2 倍の数値を示しており、断熱住宅普及の遅れが健康被害に直結していることは明らかです。 また、住宅内熱中症の割合も全国平均を上回っており、冬季・夏季両面での住環境改善が必要と言えるでしょう。

 

 次の記事では、全国のさまざまなデータを用いて、「医学的エビデンスに基づく高断熱住宅のメリット」をご紹介します。