MAGAZINE

家づくりコラム

2025.09.11

住宅断熱リフォームが守る子供から高齢者の健康 第 4 回:断熱住宅の経済的メリットと将来性

第 4 回は、「断熱住宅の経済的メリットと将来性」について詳しくご紹介いたします。

 

断熱住宅の普及で将来の医療費・介護費を削減する

 日本の医療費は 2018 年時点で 39 兆円に達しており、2040 年には 68 兆円まで膨らむと予測されています。 介護費についても、現在の 11 兆円から 2040 年には 25 兆円へと倍以上の増加が見込まれているのです。こ の急激な増加に対し、従来の治療中心の医療制度では対応が困難になることは明らかでしょう。 注目すべきは、65 歳以上高齢者の医療費の内訳になります。全体の 25%を心臓や脳の循環器系疾患が占めて おり、これらの疾患の多くが住宅の寒さと関連していることが医学的に証明されているのです。
 つまり、断 熱住宅の普及により、医療費の削減が期待できます。 介護費についても同様の効果が期待されるでしょう。住環境の改善により要介護状態への移行を遅らせるこ とができれば、急増する介護費の抑制に大きく貢献できるのです。

 

 

新築時の断熱性能と生涯コスト 

 40 歳でマイホームを新築する場合を想定した経済的な調査が実施されました。断熱等級 2(旧省エネ基準相 当)、断熱等級 4(現在の最低基準)、断熱等級 6(高断熱基準)での生涯コストが比較検討されています。調査項目は、断熱強化のための追加建設費、光熱費の削減効果、医療費の削減効果(現時点では高血圧と循環器系疾患のみ)、そして健康寿命の延長効果です。
結果として、断熱等級 4 では不十分であり、断熱等級 6 まで性能を向上させることで、経済的にも健康面でも最適な選択となることが確認されました。 断熱等級 6 の住宅では、初期投資の増加分が光熱費削減と医療費削減により回収され、さらに健康寿命の延長という付加価値も得られます。生涯を通じて見れば、高断熱住宅への投資は極めて合理的な選択といえる でしょう。

 

 

改修時の断熱性能と費用対効果 

 多くの人は若い時期にマイホームを建築し、60 歳の定年頃にリフォームを検討します。従来のリフォームで は水回りの更新が中心でしたが、そこに断熱改修を加えることの経済効果が分析されているのです。 この調査では、60 歳から 90 歳までの 30 年間を想定した場合、断熱等級 4 への改修と断熱等級 6 への改修の 費用対効果が比較されました。
改修の場合、新築と比較して内装解体などの付帯工事費用が発生するため、費用効率はやや劣り、割高となってしまうケースもあるという結果となっています。 したがって、滞在時間が長い部屋のみを断熱する「部分断熱改修」などコスト対策をすると良いでしょう。 また、この結果に介護費用は含まれていないため、その点を考えると割高とはならない可能性もあります。

 

 

自治体レベルでの医療費削減効果 

 全国の省エネ区分 6 地域に属する自治体を対象とした分析では、断熱住宅普及率と患者数の関係が明確に示 されました。 冬季平均室温 16 度以上の住宅普及率が 50%未満の自治体と、普及率が 70%以上の自治体を比較すると、人口10 万人あたりの患者数は暖かい家ほど少なくなっています。 これらの疾患は医療費が高額になりやすく、自治体の医療費負担軽減に大きく貢献するでしょう。

 

 

要介護期間の短縮効果

 在宅の要介護認定者 500 人を対象とした調査では、住宅の室温が要介護状態への移行時期に大きく影響する ことが判明しました。 冬季室温 14.7 度の住宅居住者は平均 78 歳で要介護 2 となったのに対し、17 度の住宅居住者は 81 歳で同程度の要介護状態になるという結果が得られたのです。 わずか 2 度の室温差が、要介護期間に 3 年もの差をもたらす。
この結果は、住宅の改善による介護費削減効 果の大きさを示しています。 60 歳での断熱改修は、医療費削減だけでなく介護費削減効果も考慮すれば、より多くの人にとって経済的に 有益な選択となる可能性が高いことを示唆しています。

 

5 年後追跡調査の貴重な知見 

 断熱改修から 5 年後の居住者の健康状態を追跡した調査では、長期的な効果が確認されています。 断熱改修せずに寒い家のまま 5 年が経過した場合、居住者の平均血圧は 6.9mmHg 上昇。一方、断熱改修を して、室温が 20 度程度まで改善された住宅の居住者では、血圧上昇が半分程度に抑制されました。
また、脂質異常症、夜間頻尿、家庭内転倒についても、適切な室温環境を維持できた群では発症率が 3〜4 割 に抑えられています。 このように長期的な視点で見ても、断熱改修の健康へのメリットは大きいと言えます。

 

分析が示す断熱住宅の圧倒的な費用対効果 

 日本の医療費や介護費は、将来的に大幅な増加が見込まれています。 この費用を削減するためにも、データで裏付けられているように住宅の断熱改修によって病気を予防するこ とが今後重要となるでしょう。

 

 次回の記事では、「快適性と健康効果を高める設備と内装」について詳しくご紹介します。